私がまた夜に寝られなくなってきた頃、学校は冬休みに入りました。
笑いが止まらなかった時期は終わり、今度は悲しみが止まらなくなってきました。
涙が止まらず、一晩中泣き続けたり、長文メールを友達に送りつけたり。
眠れなくて欝々としていたある夜、頭の中に声が聞こえてきました。
学校の外で個人指導を受けていたA先生の声でした。
その時は分かりませんでしたが、統合失調症でよくある幻聴の症状でした。
「ねえ、そんな苦しい家出ちゃいなさいよ」
頭の中の声に促され、家から外に出ました。
お財布も持たず、そして冬の夜なのに部屋着のままで外出しました。
頭の中から聞こえる声にひたすら従って動いていました。
私は、頭の中で話すA先生と会話しながら、外をあてもなく歩いていきました。
家出という意識はありませんでした。
「あなたは本当に心がきれいな人なのね」
A先生は頭の中で私を褒めました。
きっと、私が言ってほしかった言葉、求めていた言葉が頭の中で鳴り響いていたと思います。
学校が苦しかった私ですが、家も苦しかった。
高校を選ぶ時に専門を強制した親が嫌いで仕方なかった。
親に反発できなかった自分も嫌いだった。
この家を出たいという気持ちが、突発的な家出に繋がったのでしょう。
歩いていくうちに、目の前に真っ黒な服装の人と真っ白な服装の人が順々に現れました。
「黒い人と白い人がいる…」
私はつぶやきました。
それは幻覚で見えたものでした。
黒い人と白い人に導かれるように、夜道を歩いていきました。
冷たい空気が心地よくて、心が洗われるようだと思いました。
今の私には、その後に作ることができたたくさんの幸せな思い出がありますが、
その時点でその家出は一番と言っていいほどの幸せな経験でした。
自分で決めて、自分で外に出ていく。
何にも邪魔されず、冷たい空気を浴びて外を歩く。
頭の中では、先生が私を褒めてくれる。
それが異常な精神状態であることに全く気付かなかったのは、やはりその時にはかなり病状が悪くなっていたからでした。
「T大学の閉鎖病棟に行きなさい」
頭の中で、A先生は私にそう指示しました。
ほどなくして私はタクシーを見つけました。
「T大学の閉鎖病棟に連れていって」
運転手さんに頼み込みました。
「T大学?ここからものすごく遠いよ。お嬢ちゃん、お家はどこなの?」
タクシーの運転手さんは私の家の場所を聞き出し、送り届けてくれました。
財布も持っていませんでしたが、
私の両親が迎え出てくれてタクシー代を支払ってくれました。
私は帰りたくなくて抵抗しましたが、両親が私を家に引き戻しました。
行くあてもないのに、その時は帰りたくないという思いばかりが強かったのです。
タクシーの運転手さんのおかげで、私の最初で最後の家出は数時間で終了しました。
私が強制入院となったのは、その翌日のことでした。